キスしたのは最低野郎でした。

「知ってる。だけど俺恥ずかしがり屋だからさ、な? 許してくれよ」
パンっと手を合わせる音が聞こえた。
「は? そんなので許されるなら警察はいらないよ。雪姫ちゃんとキスしたことを『ごめん』の一言で許すとでも?」
翔くんは怒っていた。私の為に怒ってくれていた。そんな翔くんの姿が嬉しくてまた涙が流れる。
「もう、もういいよ、翔くん」
「雪姫ちゃん?」
顔を上げる。
「もういいって、言ったの。大丈夫だよ。だから、お願いだから、二人とも喧嘩しないで…」
三度目の涙が零れそうになるのを我慢する。私の言葉が届いたのだろう、翔くんは私を一瞥してから琉輝君を睨む。
「…雪姫ちゃんがやめてって言うからやめる。これ以上僕の大切な親友を傷付けたくないからね…雪姫ちゃん」
「ん? なぁ、んっ!」
返事をしようとしたらいきなり翔くんにキスされた。
「お前さ、人のこと言えねーんじゃねぇの?」
その光景を直視する琉輝君がボソリと呟いた。
「そんな訳ないじゃん。…僕はずっと片想いだったんだよ雪姫ちゃん。雪姫ちゃんは気付いてなかったかもしれないけど僕はずっと、ずっと、君が好きだった」
顔を赤くして私に告白してくる幼馴染。
私は目をぱちくりさせながら呆然とする。
「え…?」
頭が追い付いていなかった。
待って、琉輝君は私が好きで、翔くんも私が好きで… えぇ?
「僕じゃ、駄目かな」
前の琉輝君のように愛おしそうな顔。
「えっ、えぇ~っと、」
返事にとても困った。ここで断ってしまったら関係が崩れてしまうんじゃないかという恐怖と承諾してしまったらしてしまったで周りの男子や琉輝君が悲しむ。まさに究極の選択肢だった。
「…ごめん」
先程と同じようにぎゅっと抱き締められる。
「雪姫ちゃんを困らす気は無かったんだ。どうしてもあいつがやったことが許せなくて… 雪姫ちゃん僕とのキスは嫌だった?」
私はふるふると左右に首を振る。