キスしたのは最低野郎でした。

「お前こいつの幼馴染だったよな、だったら俺のこと知ってんじゃねーの?」
悪巧みでもしてるように黒く染まった笑みをうっすらと浮かべる。
「…琉輝なんて名前聞いたことないね。何処の中学出身?」
「奴椰(ヤツヤシ)高校」
「奴椰…? 待てよ、お前まさか…!」
「あーそのまさかかも。久しぶりだなあ、しょー」
「僕の名前を呼ぶな! なんなんだお前は! 前だって雪姫ちゃんを傷付けたじゃないか! これ以上どうしたいって言うんだよ!」
「おー怖い怖い。仮にも先輩だぞ?」
「この際そんなのどうでもいい。女の子に無理矢理キスする男に敬意を払うほど優しくないからね僕は。何が目的だ。雪姫ちゃんは成長したんだ。ここまで頑張ってきたんだ。今では町中には留まらないくらいに有名なんだ。誰でも知ってる有名人で美少女なんだ。やっと上り詰めたっていうのに君はそれを踏みにじって雪姫ちゃんを困らせて泣かせて、本当に訳が分からないよ。お願いだからさっさと雪姫ちゃんの前から消えてよ」
私をぎゅっと包み込む手がそこにはあった。私はその手の中でその温もりに安堵する。翔くんの優しさを実感する。
「それはごめんだな。なんでお前の指図なんて聞かなくちゃいけないんだよ。こっちだって我慢してたんだぞ。この高校入ってからそいつがいるって知って最初は見るだけにして見るだけで良かったのに日が経つにつれてどんどん欲が溢れて、だから俺はテストの日だけ高校に顔を出すようにしたんだ。歯止めが利かなくてそいつを傷付けたくなかったから。でも駄目だったんだ、それは謝る。ごめんな」
いつもの元気な声とは違って本当に申し訳ないと思っているのかトーンが少し低い。
「それ今言うことじゃないよ」
そんな琉輝君に厳しくものを言う翔くん。
やめて、私のことで二人とも喧嘩しないで。皆集まっちゃう。新聞に載っちゃう。やめて、大事にしたくない。
私は必死に願った。神様に願った。けれどそんな願いは届かず二人の口喧嘩は続く。