キスしたのは最低野郎でした。

「そんな人知らないのでどうぞ後ろにいる先輩方と戯れてて下さい」
「え?」
なんのことかと後ろを振り向いて棗高校女子大半が集まっていることに気付き驚いている琉輝君をよそに私は翔くんと談笑をする。
「翔くん昨日の夜ご飯何だったの?」
「ん? 昨日? 昨日はカレーだったよ」
「わあ~カレー、美味しそうだね!」
「でしょ! 美味しかったんだよね~ルーが最高!」
「おいちょっと待てよ」
幸せな別世界での会話の終止符が打たれるのはとてつもなく早かったのだった。
「なんですか? 私、翔くんと話してるんですよ?」
私は笑顔を貼り付けたままだったが多分笑っていないだろう。
「俺とも話せよ」
きゃーきゃー騒ぐ女子など眼中に無いらしい。お陰で私には痛い視線が刺さりまくりだ。
「あの… 後ろに可愛い子が沢山いるじゃないですか、私は翔くんと話すのに忙しいので他を当たって下さい」
ふいっと翔くんに向き直る。
「えっと、なんの話だったっけ?」
緩んだ口元から甘ったるい声で問う。
「あーあ、俺達キスした仲なのにな~」
「…今、なんて言った?」
その言葉に反応したのは私ではなく翔くんだった。
なんで? なんでここでそんなこと言うの?
私も動揺を隠しきれずわなわなと震える口を手で覆う。
「あ? 『キスした仲』って言ったんだよ」
挑発しているのかやけに強く言い放つ。
「ねぇ、もうやめて──」
私が間に入ろうと動いたが途中で翔くんに肩を掴まれた。
「わっ」
バランスを崩して転びそうになった私の体を翔くんが支える。
「雪姫ちゃんが嫌がってるし、…まさか無理矢理やったとかないよね?」
「んなわけねぇじゃん」
「そんなことないよ!」
私は確信を持って叫んだ。
「なんで私のこと無視して話進めるの!? 私は琉輝君としたくてした訳じゃない! 正直言って嫌だったんだから!」
涙をボロボロ落としながら紡ぐ。私の気持ちを伝える。
「って、言ってるけど琉輝、さん? だっけ? 君無理矢理やって嬉しかった? 少なくとも雪姫ちゃんは嬉しくも楽しくもなかったらしいけど」
誰にも泣き顔なんて見られたくない私は翔くんにくっついて背を向ける。後方からザワザワと女子の嫌味などが聞こえるがそんなことよりも翔くんと琉輝君との会話の方が大切だった。