「とうとう、とうとう復活したか!黒猫め!」


手にしていたカードを持つ手が震え、
金箔の優美な縁取りのついた黒いカードが、
クシャリと握りつぶされた。
「犬井警部っ!
それ、証拠品ですよ!
まだ指紋だって取ってないのに......」


あわてて部下が、
無残に皺の寄ったカードを取り上げる。


「なあに、
黒猫がそんな指紋を残すような馬鹿な真似をするわけなかろう。
ところで、
このロミオとジュリエットっていうのはなんだ?
本か?」


「今、
我が三島宝石がやってる世界の宝石展の呼び物の一つですよ」

警部の前で、
黒皮のソファーにふんぞりかえって座っていた壮年の男、
三島宝石の現社長は、
顔を真っ赤にして語気を荒げた。

「うちがかねてから所蔵していた、
『ロミオ』という大きなサファイアのブローチがありましてな。
それと対になる、
『ジュリエット』というルビーのブローチを、
この度手に入れることが出来ましてな。



それぞれだと1億程度の価値しかありませんが、
二つをあわせることで10億に跳ね上がるんですわ。

ようやく、
長年探し求めて手に入れることが出来たのに。
よりにもよって黒猫に目をつけられるとは」