白い喉をこくこくと鳴らしながら、
水を流し込んで緊張感と興奮を鎮め、
無事初仕事を終えた安堵感に包まれた。


とその時、
ギッと板張りの床が鳴った。

瞬く間に全身の神経をとがらせ、
ソファーの奥に飛び込み隠れようとした途端、
小さなきらめきがアタシを襲った。


「キャッ」



光が身体の周囲をかすめる中、
身をよじって後ろに飛び、
その先にあった毎晩酔っ払い客の男性とホステスが熱唱していたであろうステージの上へと倒れ込んだ。


「誰?」



アタシは、カウンターに置いた光の後ろに立つ男に向かって、
問いかけた。

光がまぶしくてよく見えないが、
黒いシャツと黒いジーンズに包んだ背の高い男は、
予想より若い声で答えた。


「私はご同業だよ。
通り名はJ。
高名な黒猫さんのお手並みを拝見させてもらったんだが、
仕事ぶりには関心したよ。

だが君に少々興味を持ってね、
それでご挨拶をしに来たよ」

「それは初めまして、
ご挨拶をありがとう。
だからって、
こんなことをする必要がどこにあるのかしら」


どうやら、
小さなきらめきは薄い刃のようなものらしい。

ナイフ程度は打ち身になっても刃は通さない強度を持つはずなのに、
それが肌には触れずに身体を覆う強靭な黒い布をたやすく刻んでいく。


Jがカウンターを飛び越えて歩み寄ってきた。

光の中に、洗練された雰囲気を持つ端整な顔が浮かび上がった。


一瞬見惚れてしまった自分を叱咤しながら、
つかんでいた飲みかけのペットボトルを投げつけ、
伸ばされた手を払いのけながら腹に向かって蹴りを放つ。


だが、
それを腕で防がれ、
返す身で顔へくりだしたパンチも腕をつかまれ止められた。


---------敵わない!?

身をよじって、
大きな手から逃れた時に、
頭部を覆っていた布をはぎとられていしまった。