1時間ほど立ち並ぶビルの屋上づたいに移動し、
警察のヘリコプターも巻いたアタシは、
とある雑居ビルの上までくると階段へのドアの中に消えていった。


予定通り、
最上階の一週間前に閉店したスナックの中に入る。


窓は厚いカーテンで覆われて中も外もどちらの光も通さない為、
ハンドライトをカウンターの上に置いた。

まだソファーや机などの家具が残り、
カウンターに取り残された酒の空き瓶が営業時の店の様子をうかがわせる。


既に、
頭を包む布も身体をつつむタイツも、
警察とのおいかけっこでじっとりと汗ばんでいる。



だが着替える前に、
カウンターの下から昼間に隠しておいた荷物を取り出すと、
その中から水を取り出した。
そしてそのまま黒い体を大きなソファーに投げ出し、
アタシは一息ついた。

「これで、黒猫は女だということがばれてしまったけど、
まあしょうがないわよね」

黒猫は、
成人してから7年間務めるのが定め。


昔は成人の年齢が13や14で未成熟な上、
痩身で微乳の家系であった為、
サラシを巻けば女と見破られることもなかった。


それが更に黒猫の正体をより不明なものにしてきた。


だがお母様は、
許婚がいたにもかかわらず、
黒猫引退記念旅行の旅先でスゥエーデン人のビジネスマンに一目ぼれし、
あろうことか一族の反対を押し切り電撃結婚をした。


天真爛漫なお母様は、
「白馬の王子様と出会えたの」と優しい夫と、
両親のいい所ばかりを継承した一人娘にご満悦だった。