「お分かり頂ければ結構です。
隣の部屋の私の上着とバッグを持ってきていただけませんか?
これでは人前に出れませんので。
用も済みましたしこのまま裏から帰らせて頂きますわ」


冷静な秘書の顔を取り戻したアタシは、
染みだらけの胸元に目をやると、
本部長に嫌とはいわせない口調で頼んだ。

本部長があわてふためいて部屋を出ると、
アタシは流しの横にあったタオルの先をぬらし、
本部長がつけた染みに石鹸を胸元にこすりつけた。
そしてタオルでごしごしとこする。

染みは大きくなるが、
それよりも汚いぬらぬらとしたものが残るほうが嫌だ。

タオルの乾いたほうで水気をとっていると、
本部長が息をきらして、
白い上着とバッグを持ってきた。

アタシはお礼を言うこともなく受け取り、
呆然と佇む本部長の前で身をととのえた。

そして、
氷のような冷たい一瞥を投げて、
給湯室を出ていった。