体育館から教室へ戻る道、賞状を抱えた広貴が私の
隣に並ぶ。


「お前、なんで観に来なかったんだよ、総体」


「別にいいじゃん。観に行く理由なんてないし」



触れられたくないことに触れられて、つい口調がきつくなる。

これ以上そっとしておいて欲しくて、私は少し早足で歩く。




「一人で抱え込むなよ」



三歩後ろぐらいに並んだ広貴が、そう言う。


私は気になって振り向いた。




「俺も、知ってるからさ。太一先輩のこと」


「えっ」



思わず声が出る。


広貴も、知ってるんだ。



私勝手に、太一先輩の秘密を知っているのは私だけだと
思ってた。


それは太一先輩にとって、学校のみんなに知られたくないようなこと。


だから、梨沙にも言えなかった。



広貴になら、相談できるんだ。


そう思うと、少し安心する。



「俺って陸上バカだからさ、中学の時から、同じ短距離選手の
太一先輩のこと知ってて。高校入って、イメージと全然違ったから、
聞いてみたんだ」