出会ってから、そんなこと一度もなかったから、
何かあったのかな、と心配になる。


本当は、今日は本を借りただけで帰ろうと思っていたけど、
閉館時間まで絵のラフを描くことにした。



どの角度で、どんなマングローブを描こうか悩む。

色々描いてみるけど、やっぱり題材が題材だけあって、難しかった。


描きながら、何度も時計と出入り口を確認する。



8時半を過ぎて、ようやく太一先輩が入って来た。


良かった、と思いながら太一先輩を見ると、向こうも
私を見て駆け寄ってくれる。



「何?どうしたの?いつもは俺が声かけるまで、気づいてくれないくせに」



太一先輩は自分が来るのが遅かったことを、別に気にしていないようだった。


「いつもの時間に来なかったので、何かあったのかなって……」


言いながら、いつもより素直な私が照れくさくなる。


太一先輩は、それを聞いてぶっ、と笑った。


「人が多くなって来たから、少ない方がいいなと思っただけだよ。
そんな心配してくれてたなんて嬉しいわー」


「別に、そんなわけじゃ……」



必死で照れを隠す。


でも、来てくれて嬉しい。