「田嶋、俺帰るな?」
「え?」
いつの間にか外出用の服に着替えていると思ったら、土田がそう言った。
「どうしたんだよ?」
聞き返した俺に、また聞き返す土田。
「いや、帰るのかと思って」
いつもはこんなふうに帰らないのに。
もっとゆっくりしてるじゃないか。
「帰るよ?」
平然と答える。
「そ、そっか
どうかしたのか?」
「いや、別に」
何か用事があるならしょうがない、そんな期待は、すぐに砕かれる。
動揺を隠しきれず、つなぎ止めようとしているのがバレバレの言い方をしてしまう。
俺、なんでこんな動揺してんだよ。
そんな俺に、いつもよりも冷たく返す土田。
「何も無いならここにいればいいだろ」
今、帰すのは嫌なんだ。これからが無くなってしまいそうで。
「...気まずいし」
ドクン
土田の口からでた言葉が強く胸を突く。
〝気まずい〟なんて、今まで一度も思ったことなかったのに。
「...そうか
じゃあな」
返せる言葉が思い浮かばなくて、ついそんな事を言ってしまう。
「...うん
また会社で」
「おう」
そう言って土田は行ってしまった。

