「なんかあったのか?」
「ん?何もないよ」
気になって声をかけると、土田は首を横に振った。
「あるだろ」
土田の言葉が信用出来ず、また聞く。
「ないってば」
返事はさっきと同じ。
「言え」
「やだ」
「言えって」
強情にも程がある。さっさと言ってしまえばいいのに。
自分の声がどんどんきつくなっているのがわかる。
「やだって言ってるだろ!」
土田は声を荒らげる。
いつもの土田とは違った、落ち着きのない声だ。
「どうかしたのか...?」
こんな土田、見たことない。
今までの土田はずっとニコニコしていた。毎日会う度幸せそうに笑う。
今日はなにかおかしい。
「あ...、ごめん」
土田は自分が声を荒らげたことに気づいたのか、謝る。
でも、俺が今聞きたいのは謝罪の言葉じゃなくて理由だ。
土田の様子がおかしくなっている理由。
「なんかあったのか?」
念を押すように聞いてみる。これで答えてくれなかったら、もうお手上げだ。
何も出来ない。時間の経過か、土田が自分で話し始めるのを待つしかない。
「...なんにもないよ。
ごちそうさま、美味しかった」
土田はそう言って逃げるように立ち上がった。
「そう、か」
さっきからずっと〝ない〟と言い張っていたが、今の言い方が一番、
「変だった」
口からつい出てしまう。多分、土田には聞こえてない。
変だった。有無を言わせず、文句も言わせず。突き放すように冷たく言い放たれた言葉。
土田、もう俺じゃダメか?

