私の質問に那くんパパは苦笑気味に言った。
「…最初この話を杏にした時"那は頷かないと思うわよ。あの子には誰より幸が必要なんだから"って言われて……」
「よく分かってるな、母さん」
「そ、それにしてもっ、ここにいないのはやっぱり…っ!」
照れてしまった私がこんな風に言うのは説得力に欠けちゃうかもしれないけど、本当のことだから。
「分かってる。杏には、那と話し合ったあとに言おうと思ってるんだ」
「……それで先に俺を説得しようとしてるわけか」
「アイツは怒るだろうからな…春からだなんて言ったら……」
「母さんはいつだって俺のやりたい事を優先してくれてたからな…」
そう言った那くんに那くんパパは押し黙ってしまった。
私も何も言えなくて、思わず俯いた。
だって、それはつまり、那くんママはこの話に納得してないってことでしょう?
そんなの……。
邪念を振り払い、那くんパパに考えといてくれと言われ、3人での話し合いは終わった。
* * *
出掛けていたらしい誰かが帰ってきても、ボーッとしてる私たち2人は全く気付かなかった。
「こらっ!」
「うおっ!」
「わっ!」
一瞬ソファから浮いた自分の体に少しバランスを崩しながらも、すぐ声の方に顔を向ける。
そこにはどこかから帰ってきたらしい那くんママが、コートを脱ぎながら私たちを見ていた。


