「朱…」
「お、兄ちゃん…っ」
隣にいた那くんも朱ちゃんの涙に気付き、朱ちゃんを静かに抱きしめた。
ごめん。ごめんね、朱ちゃん……。
私も那くんもしっかりするからね…。
朱ちゃんが私と那くんといたいって言ってくれるら、絶対それに応えてみせるから。
だから泣かなくていいからね…。
「「あの、」」
「っ、」
「……」
みんなが寝静まった頃、私と那くんはベッドの中できっと、同じことを考えてた。
重なる声に、少なからず私は少し動揺したりもした。
「……幸、俺からいい?」
「………うん」
――いつもは絶対"幸から"って言ってくれる那くんが、初めて自分からいい?って聞いてきた。
これだけ一緒にいたのに、初めてだね、こんなこと…。
そんなことを思いながら、那くんの声に耳を傾ける。
「……この前の話なんだけど」
「うん、分かってるよ」
「…父さんが、今の会社の次期社長候補に上がってるらしくて……」
「えっ、すごい…!」
那くんの言い方からして、那くんパパが1番慕われてるって思っても大丈夫だと思う。
つまり、那くんパパが那くんに言ってたのって――……。
「「海外で一緒に住まないか」」
「っ!!」
「って事だよね?」
……驚いてる様子の那くんの顔が、なんでかな。悲しそうに見えるよ。
考えれば分かる話だったはずなのに。
那くんパパと那くんママの仕事を考えればなくはない話だったはずなのに。
どうして私は、こうなるってことを一度も考えてこなかったのかな……。