超能力、というと少し古い漫画にでも出てくるようなイメージかも知れない。

このスクールには00年代生まれの超能力者が集められている。
「ある事件」をきっかけに超能力を身に付けたといわれる生徒たち。
私、不破翔子もその一人だ。

といっても私の能力は大したものではない。
人の念のようなものが、ぼんやりとした色で見えるというだけ。
そのためか昔から変わった絵を描くといわれたが、超能力のせいだと知ったのは最近だった。

この能力がなんの役に立つかは分からないが、とにかく私はこのスクールに特待生として招かれた。

「相変わらず不気味な絵だな」
背後から声をかけられる。
「か、神威くん」
描きかけのキャンバスを無遠慮に覗きこむのは、同じクラスの神威冬馬だ。
「匂うな」
その端正な顔を覆う眼鏡が光る。
「えっと、絵の具の匂いかしら」
私は伸びた前髪の隙間から、彼の表情を伺う。
不機嫌そうな顔に、グレーがかった色が見えた。
「いや、罪の匂いだ」
彼は残留思念の匂いを感じる能力の持ち主らしい。
親が警務総監だか警察のお偉いさんという噂だ。

私はこのクラスメイトが苦手だ。
地味で気弱な女子をからかうのが趣味なのか、こうしてたまに声をかけてくる。
「あ、あの」
ふいに彼の手が私の髪を掴み、鼻先が首筋に向けられる。
「ひっ!?」
「お前、何か隠していないか?」
匂いを嗅ぎながら囁く吐息が耳にかかる。
「や、やだ」
恥ずかしさのあまり、身をすくめることしかできない。
「ふん」
心なしか満足そうに目を細め、彼は私を解放する。
「邪魔したな」
そう言うと神威はくるりと踵を返し、教室を出ていった。