そう言ってリビングから出ていこうとする男の裾をキュッと摘む。
「ん?なに?」
目を細めて、私を見据える。
「あり…と…。」
思った以上に声が出なくて、私は届いてないだろう声を噛み締めるように口をギュッとつむる。
「ありがとう」の一言すらまともに言えない自分が嫌になる。
すると男の手が私に伸びてきた。
反射的に目をギュッとつむると、頭にフワッとした優しい重みがのしかかる。
サラサラと撫でられる髪の毛に、私は思わず目を見開く。
優しくされたのは…初めて。
手の重みが消えたと思うと、そのまま男はリビングを離れた。