私は不思議と、目をそらせずにいた。
口は開かず、ただ見つめるだけ。
それでも男は優しかった。
「俺ん家くる?」
差し出された手に吸い込まれるように、私は手を取った。
無言で男と肩を並べて歩く。
顔を見上げればニコッと笑い返してくれて、濡れてしまうと思い少し離れれば引き寄せてくれる。
しばらく歩けば、綺麗なマンションに着いた。
オートロック式でエレベータ付きの、少し高そうなマンション。
「ここの4階の402号室が、俺の部屋。」
『おいで。』と手を引かれ、一緒にエレベータへ乗り込む。
怖いという感情も無ければ、どちらかと言うと安心する。
あの家に帰らなくて済むんだって…。
ーーピンポン
4階ですと言うお知らせの後、エレベータの扉が開いた。