遥斗side
稚己が目を覚まさないまま新学期が始まった。
俺に群がる女を無視して下駄箱まで行くと、これまた囲まれた啓悟の姿が目に留まった。
「や。稚己ちゃんのとこ?」
俺は稚己がよくするように、力なくコクリと頷いた。
「そっか。目が覚めたら連絡してね。言いたいことがあるから。」
「「「えー!稚己ちゃんって誰!?」」」
俺らの会話を聞いていた女たちは、ぎゃーぎゃーと喚きだした。
うるさい…。
さっさと稚己のとこ行こ。
俺は下駄箱から靴を取り出すと、急ぎ足で病室へ向かった。
病室の前で足を止め、振り返る。
そう言えば最近稚己の母親来てないな。
そんなことはさておき、俺は稚己の病室の扉を開けた。
「あら、遥斗じゃない。」
「なんだ、香織か…。来てたんだ。」
俺より先に居た香織。
香織は稚己の側の椅子をたち、奥のソファに座る。
俺は空いた席に座り、稚己の手をギュッと握った。
「稚己…いつになったら帰ってくる?」
俺は稚己の手を握りながら、ずっと話しかけ続けた。
今日あった出来事も。
嫌なこと、悩み事。
稚己に会いたいと言う事。
そして時々涙する。
俺…稚己が居ないと泣き虫だわ…。
早く帰ってこい、稚己。