「「失礼しましたー」」




俺らが診察室を出る時にもインパクト親父は



「はいはいー。また来てねー。」



とか言ってやがる。



普通来させないように病院側も『気をつけるんだよー』くらい言うもんじゃねぇのかよ!


と思い、また吹き出す。




病院出ようとすると、看護師と看護婦の話し声に俺たちは立ち止まる。



「橘 チコさんの容態は?」



「まだ安心できる状態ではありません。」



チコ…?



いや、でも本当に"稚己"と決まった訳ではない。




「なぁ遥斗…稚己って…。」



俺は啓悟を置いて、その場から走り出していた。



稚己と決まった訳じゃなくても、顔を見ずには居られなかった。



もしかしたら、別人かもしれない。




そんなことを考えながら無我夢中で走って居ると、とある病室の前でまた話し声が聞こえてきた。



「ほんと有り得ない。あの女夜中に飛び降り自殺するなんて…」



どうでもいい話だろうと、目の前を通り過ぎながら病室の名前を一つ一つ確認して行く。




「あーうん。多分ね。虐待してないって言えばこっちのもんでしょ。」



不意に聞こえた"虐待"と言う言葉に足を止める。




「あの程度教育よ。」



再び歩き初め、あの女が話す病室の名前を確認する。




"橘 稚己"



一緒に暮らしていた時に、稚己に教えてもらった事がある。



『私の名前は幼稚園の稚に己って書いて、稚己って読むの。』




『へー。』



『つまり子供心を忘れるな。自分は自分。他人に惑わされるな。って意味で、お母さんが付けてくれたものなの。』




あの時の言葉が鮮明に蘇る。




俺が女に振り返ると、女はギロっとニラみを利かす。