春と一緒に中庭にきた。
放課後だから誰もいない。
野球部やサッカー部の声だけが聞こえる。

「ねぇ、春…本当に…浮気してないんでしょ?」
「はぁ?何?疑ってんの?」
「そう言う訳じゃ…」
「明らかに疑ってんじゃん。だったら別れるか?」

やっぱりそうなってしまうのは怖かった。
でも、ダメ。
ちゃんと向き合うんだ。

「ううん。ただ確認したくて」
「してねぇよ」

そう言った春。
声はいつも通り。
だけど瞳が冷たい。
それもいつも通り…。

「…もしかしてあのせつなちゃんのこと信じてんの?」
「信じてるよ」

そこだけはしっかり言った。

「はぁ?なんで?あんな子信じんだよ?あんな子、地味で目立たないし、愛想笑いばっかで、何考えてんだかわかんない顔してんじゃん。きっと唯も騙されてんだよ」

今なんて?
地味で目立たない?
愛想笑いばっか?
何考えてんだかわかんない?
ひどい…
ひどすぎる…

「…なんて言った…?」
「はぁ?聞こえねーよ…」
「今、せつなのことなんて言ったって言ってんのよ!」

やっぱりこの人は信頼してはいけないと思った。
怒りとこの人に対する失望、後悔…様々な負の感情が溢れ出る。

「確かにせつなはあんたなんかから見たら、地味かもしれない。愛想笑いばっかかもしれない。だけど、誰よりも、優しい心を持った子なの」
「俺より大事なのか?」
「そうよ。私にとっては大切な友達をバカにするあんたよりせつなの方が何十倍も何千倍も何億倍も大切なの…さようなら…」

こうして、春に別れを告げた。

「待てよ」

振り向いたら、春が凄い形相で睨んでいた。

「許せねぇ。ここまで侮辱しやがって…」

春が一歩と近づいてくる。
それと比例して私も後ろに後退する。

「あぁ、わかってねぇな。本気にしてんじゃねぇよ。お前みたいなの…誰が本気にするかよ。テメェみたいなの…。なんの足しにもなんねぇよ。なんの日でもないくせしてプレゼントばっか持ってきやがって…正直、ウゼェんだよ」

そうだった。
春に少しでも好きになって欲しくて、記念日でもなんでもないけど、プレゼントあげたことあったっけ。

「お前だけは絶対にゆるさねぇ」

そう言って拳を振り上げて来た。
いつの間にかここまで近づいていたことに気づいた。
目を瞑って、衝撃に備えた。
だけど…

「あれ?何やってるんですか?」
「あぁ?誰だお前」
「な、直人…」

いつの間にかジャージ姿の直人が中庭にいた
そんな事に安心した。

「荒野先輩じゃないですか?あの有名な」
「どういう事だよ」
「浮気ばっかして、現場見られたら、そいつとも浮気して、最高5股かけたことで有名な」
「どっからそんな事…」
「風の噂ってやつですよ」
「てめぇ!」
春が直人の胸ぐらを掴む。
「殴るなら殴れよ」
静かにそう言う直人。
そのすぐあとに、痛そうな音が聞こえた。
脱力している春と床に倒れている直人。
殴られたんだと再度確認された。

「気は済んだか?」
「どいつもこいつもふざけやがって…」
そう言って、どこかへ行ってしまった。

「直人!大丈夫⁈」
「あぁ、大したことない」
「嘘!だってほっぺ凄い腫れてる」
すぐに私は水道に向かってハンカチを濡らして、直人の元に戻る。
直人のほっぺに当てる。
「ごめんね…私のせいで…」
「何言ってんだよ。幼馴染だろ?嬉しい事も迷惑な事も分け合うのが幼馴染なんだろ?」

それは私の言い訳だ。
直人のお菓子を取ったり、夏休みの宿題を手伝ってもらう時とか。
そんな時の私の言い訳だ。

「ほっぺ、明日も腫れたらごめん」
「別に、部活でボール当たったって言う」
「そう言う事じゃなーい」
「じゃあ部活行くわ」
「あ、そっか。じゃあ頑張って」
「そりゃどうも。あ、部活終わるまで、待っとけよ」
「え?なんで?」
「まぁそりゃ楽しみにしとけ。じゃあ」

呼び止めるのも迷惑だと思って、とりあえず待つ事にした。
今は教室で特にしたいこともない。

荷物を持ってぶらぶら校内を見て回った。
グラウンドが見える窓があった。
「あ、直人…」
パスを回す直人をすぐ見つけた。
直人は部活の先輩と帰る準備をしながら、何か話している。
「何、話してるんだろう…?」
少し気になる。
「唯、何してるの」
「あ、せつな…何でも。せつなは?」
「部活、終わったから」
「あ、そうなんだ。私、春と別れたから」
「そう、唯がいいなら、それでいいんじゃない」
「うん、後悔なし!じゃあ、約束あるから」
「うん、バイバイ」
廊下を歩くと、前から橋本くんが歩いてきた

「あ、せっちゃん。奇遇〜」
「あと追ってきたのバレバレ」
「バレた?」

2人の会話が聞こえて、少しクスッと笑った。