唯は私を見ると少し驚いていた。
だけど逃げようとしなかった。

「唯あの…」
私は唯に近づいてく。
「これ…」
「え…?」
唯が私の鞄を突き出した。
「せつなのでしょ…」
「あ…うん、これも」
そう言って唯の鞄を返す。
「ごめん、せつな…私手帳勝手に見た」
そこで少し驚いたけど、私も同じことをした
「私もごめんなさい。唯の手帳見た…」
唯は驚いて私の顔を見た。

「あれ、嘘じゃないよね?手帳に書いてたこと…」
唯がおどおどしながら聞く。
「うん、嘘じゃない…本当の私が唯に言いたい事」
「…嬉しかった…」
「え?」
「せつながあんな風に思っててくれてて…」
唯がか細い声で言った。
「私も…嬉しかったよ」
「私たち似てるね」
唯がそんな事を言うから驚いた。
「そうね…」

2人の間に沈黙が流れる。
「ねぇ、せつな…」
「何?」
「酷いこと言ってごめん」
唯はさっきと違う弱々しい声じゃなくて、はっきりした声だった。
「せつなのことちゃんと信じてあげれてなかった」
唯は吹っ切れたみたいに喋っていく。
「私もごめんなさい。唯が不安になる事言っちゃって…」
「ううん…悪いのは私だよ。春のこと完璧信じてて、失いたくなくて、せつなを信じれなかった」
2人とも言えなかった思いを口にしていく。
「せつな、友達に戻って…って私が言える立場じゃないよね」
「唯…」
「せつなを傷つけて、1人にしてた私が言えない…」
「待って…!」
私は唯の言葉を遮る。
「私は…唯とまた笑いたい。お弁当を一緒に食べたい。また一緒に勉強したり遊びに行きたい」
「せつな…」
「だからお願い…!立場とかそんなの関係ない…また友達に戻って欲しい…」
私は勢いのまま言ってしまった。
「うん。でも友達のままは嫌」
唯の言ってる事がよくわかんない。
「私とせつなは友達も親友も超えてまあ大大大親友にならないといけないんだから」
「うん…」
なぜか涙が出てきて言葉を発せない。

「ずっと不安だった…このまま…唯と…話せなかったら…どうしよう…とか…友達に…戻れな…かったら…とか、たくさん…考えたら…不安で…不安で…怖くて…仕方なかった」

蓋を取ったように思いがとめどなく溢れでる

「私も、不安だった…私は春よりせつなと一緒にいたい…。それは紛れもなく事実、私の本音なの」

2人で涙を流して、2人で涙を拭った。

「私、春とまた話す…。せつなのことは信じてる…だけど、春を少しだけ信じたいんだ」

唯はまだ諦められないんだ。
そうだ、唯ならきっと大丈夫…
一途に真っ直ぐに思い続ける唯が凄い。

「あ、もうこんな時間!?せつな急ぐよ!」
そう言って手首を握られる。
その手は誰よりも暖かく、頼りになる。

いつも、一緒だった懐かしい感触…
不安も恐怖も打ち消してくれる。

ギリギリで私たちは朝のホームルームに間に合った。
運動不足の私は息切れが凄かった。
完全に唯のペースに巻き込まれた。
合わせるのは大変だけど、1番いい…。

「2人ともギリギリだったな」
直人くんが唯と話している時に話しかけて来た。
その後ろに翔くんがいた。
この2人、いつの間に仲良くなったんだろう。
もしかして、唯と喧嘩した時と同時くらい?
確か、2人とも球技大会では、サッカーだったはず。

「せっちゃん、良かったね」
翔くんがそんなことを言う。
「ありがとう」
今日は素直になった。
放課後に部活に向かう途中、唯と荒野先輩が歩いてどこかに行くのを見た。
心配になったけど、唯ならきっと大丈夫…

部活の合奏中も気になった。
大丈夫と言い聞かせて…合奏に集中した。
コンクールの次は学校祭の演奏の準備。
全校生徒の前でやるのは緊張する。
だけど、やってしまえば楽しくて、ウキウキする。

こうやって…嫌だと思っていても、終わってしまえば虚しくなってしまう。
そんな事もみんなと…翔くんと過ごしていけるのが嬉しい。