私の過去を深刻な顔で翔くんは聴いてくれた。「でも、今思ったら、逃げてただけだったのかな?」
「え?」
「私には唯がいた。だけど、辛さに勝てなかった。それで唯の事忘れて、勝手に1人だって決めつけてた。そうする事で、ちょっと楽だった。そうする事でしか、安心できなかった」
1人だって決め付ける事で何も失わないって思うと楽だった。
「でもさ、普通逃げたくなるんじゃない?」
私の手を優しく握っていた翔くんはそう言った。
大きくて、ゴツゴツしてるけど、なんでかそれが安心する。
離れて欲しくない。
もっと握って欲しい。
温かいから。
安心するから。
もっと強く。
「せっちゃん」
いつも通りの翔くんの優しい声…
「なんか、俺たち結構近かったんだね」
「そうね。なんだか、気づいたらこんなに近かった」
「じゃあさ…その…」
「え?」
「なんでもない!帰ろ!」
「え?うん!」
何を言いかけたのか気になるけど、私たちは一緒に帰った。
なんだったんだろう?
握られた手をしばらく見つめていた。