今日はコンクール本番だ。
午後から本番だった為、午前中は練習だ。
だが、そこからみんな、緊張していた。
バスの中は緊迫した雰囲気だった。
そして、会場に着いた。
やっぱり大きい建物。
はぁ、今になって緊張して来た。
「大丈夫」
美希先輩が私の緊張を察して笑顔を見せてくれる。
「だって、私たち、あんなに練習したでしょ?完璧、完璧」
そう言って、親指を立てて見せてくれた。
でも、美希先輩はそんな事、普段は言わない。
きっと、美希先輩も緊張している。
美希先輩にとっての最後のコンクール、精一杯頑張らなきゃ。
「せっちゃん、頑張ろうぜ!」
「うん!そうだ、翔くんこれ」
「ん?」
お守りを渡すと、すごく喜んでくれた。
「よしゃ!俺、頑張れるぜ」
そして、私たちの番になった。
出だしのクラリネットの音は揃ってそこからかなりいい感じに進んだ。
そして、終わり。
拍手が起こった中、私は今にも倒れそうだ。
緊張の糸が一気に切れた感じ。
私たちは一旦会場の外で楽器をしまう。
みんな、楽器をしまって、会場に戻って他校の演奏を聴くのだが、私はトイレに行ってから向かおうと思い、トイレに行った。
会場はほとんど席がなかった。
「せつな!こっちこっち!」
もう出場する学校はないから美希先輩が思いっきり大きい声で私を呼ぶ。
「もうそろそろ結果発表ですね」
「…うん、すごいね。最後ってだけでこんなにドキドキしてる」
私はその時、2年後の自分を想像した。
私もこんな風になるんだろうか…と。

そして、結果発表。
結果は、金賞だった。
私は息が止まるのを感じた。
だけどダメ金だった。
私は中学から金賞の経験はあまりない。
そして、喜びの余韻に浸ってると、隣の美希先輩は静かに泣いていた。
「先輩…?」
先輩の涙は喜びなのか悔しさなのか分からなかった。
「どうしたんですか?」
私は先輩に聞いた。
「悔しいんですか…それとも嬉しくて…」
「ごめん…だけど…どっちかと言われたら両方かな…」
「え…」
意味が分からなかった。
「私ね…心のどこかで、全国…行けたらいいなぁ…って…思ってた…だから…頑張った…ダメ金でも嬉しいよ…でも…やっぱり行きたかった…そしたらさ…少しだけ…少しだけだけど長く部活出来るし、クラ続けられる…そう思ってた…」
その言葉には先輩の悔しさと願望…そして…クラリネットへの情熱を感じた。
「…積み込み…行こっか」
涙が目の縁に溜まったまま、美希先輩は立ち上がった。
「先輩!」
私は先輩の背中に叫んだ。
「私が、先輩の夢叶えちゃダメですか?」
私は声をあげた。
「私が関東に行ったら、先輩は…」
そこまで言って先輩は抱きついて来た。
「ありがとう…絶対…全国行ってね…頼んだよ」
「……はい…」
私は美希先輩と約束を交わして楽器の積み込みに行った。
バスの中は盛り上がっていた。
美希先輩は隣でボーっと外の景色を見ていた。
学校に着いて楽器を下ろす。
コンクールが終わったら3週間後に終業式。
早いなぁ…
そして、解散になった。
「せっちゃん、一緒に帰ろうよー」
「いいけど…」
いつもより暗い道は雰囲気が違くて少し怖かった。
「金賞だったね」
「うん。嬉しいよね。ダメ金だけど」
「まぁ、妥当ってところじゃない?」
「そう…だよね」
私は美希先輩の涙が頭にこびりついて離れない…

「ね、コンビニ行かね?」
翔くんがそんな誘いをする。
「いいけど」
私も少しお腹が空いた。
翔くんがアイスのコーナーに行った。
私もついて行ったらけど、どれもしっくりこなくてスイーツのコーナーに向かった。
エクレア、シュークリーム…どれも美味しそう。
私はカスタードプリンを手に取った。
「嘘…」
私は隣を見た。
普通気にならないけど、どこか聞き覚えのある声だった。
「近藤さん?」
私は目の前の制服の女子を見つめる。
中学校の後輩だ…
担当楽器はたしか…パーカッション。
特に関わりがあったわけじゃない。
あの事件以外は…
「久しぶり…だね」
会話に詰まってどうでもいいことを言った。
「よくそんな呑気な事言えますね」
やっぱりまだ恨んでる…
「私、先輩のこと大っ嫌いです!先輩のせいであの子は…裕太(ゆうた)は…絶対許さない」