良いことがありすぎて、死ぬかと思った。
昼休み、世界が良い方向に転がった。


「百日、こっちおいで」


山越さんが手招きした。


「一緒に食べよ~」


田坂さんも誘ってくれた。
嬉しいと私は下唇を吸ってしまう。早く行かなければと思いながら、弁当箱を乗せた椅子を持ち上げた。


「百日、今日はお弁当なんだ」


田坂さんが私の弁当箱を覗き込んで言った。


「うん。あっ、大学芋が入ってる」


小さめの弁当箱に、私の好物の大学芋がぎゅっと詰められていた。


「それで足りるの?」


「うん。これくらいがちょうどいい……」


「いいなぁ。私いっぱい食べちゃうから最近太って……」


山越さん、別に太ってないけど……。あっもしかして女子特有の社交辞令?


「茜~これ食べる~?」


中野さんが、チョコビスケットを目の前でちらつかせた。


「いや、だからこの前ダイエットするって言ったでしょ!」


この輪の中が笑いに包まれた。
こんなこと、久しぶりだ。


近寄りがたいって勝手に思っていたけど、面白い人たちだな。


机にメイクを並べ始めると空気が変わる。真剣な表情で彩っていく様子に見入った。


けど、誰かがケバいとか唇お化けとか言うとその空気が緩む。
山越さんは口紅の色を間違え、中野さんはアイシャドウを濃くしすぎていた。


メイク、とまではいかなくても、洗顔くらいは気を使ってみようかな。
このメンバーでしていないのは田坂さんと私だけだ。


ブスはにじみ出るものだから無駄と思って何もしてこなかった。
ましに出来るようあがいてみよう。お母さんの洗顔料、借りてもいいかな?