「あの、……?」

あたしが問いかけるとリョウさんは笑い出し、先輩は呆れた溜息を吐く。

あたしは唖然とするしかない。
どうしたらいいんだろう。

「ふぅ、そういう事らしいね。じゃ、俺は皐月次第で遠慮なく動くよ」

あとは二人でどうぞ、とあたしの頭にキスを落としてバイバイと手を振った。
は?!と思ってると先輩の持ってるトレーがやってきてコツンと当たった。

痛さはないけど、普通それで頭叩く?

「お前は恥ずかしいヤツだ」
「そんなのっ」
「だから嫌なんだ」

なにが?
口には出さずに首を傾げると盛大な溜息を吐かれてしまった。

「バカは嫌いなんだ」
「あたしのこと?!」

他に誰がいるんだ、と今度は手のひらでハツかれて、頭を押さえると「大げさだ」と怒られた。
あたし、振り回されすぎ?と先輩に言われた“バカ”の単語が身に沁みる。

「…あと30分であがるから待ってろ」
「なんで?」
「じゃあ、帰れ」
「え?!」

だから嫌なんだ、と呟きながら仕事に戻る先輩の後姿を見つめる。

今のはどういう意味なんだろう?
まさか、一緒にお茶してくれる?それとも一緒に帰れる?!

さっきの雰囲気も忘れて一気にテンションの上がったあたしは残り30分間を秒針の進む遅さに苛立ちながら今までで一番幸せな時間を過ごした。





END