「ね、裕(ひろ)ちゃん。皐月やめて俺にしない?」
「しない」
裕ちゃんまで即答?!と完全に頭を抱えたリョウさんはなんだか可愛い。
思わず笑ってしまうと「笑顔も可愛いね」と褒められてドキリとした。
この人に隙や無防備な姿を見せたら一気に漬け込まれてしまいそうだ。
流されない自信はあるけど、フラれたときに会ったりしちゃったら流されかねない。
緩んだ表情をキリッと引き締めると「ほんと可愛いよね」と笑われてしまった。
「ねぇ、皐月。どうして裕ちゃんのこと邪険にすんの?超可愛いじゃん」
こんな可愛い妹いたら確実にシスコンだわ、俺!と、なぜか爆笑する。
「あ~可愛い。抱きしめたくなるよね~、てか抱きしめちゃう!」
急に立ち上がってあたしの真横からギュ~ッと抱きしめられる。
本当に来ると思ってなかったからチーズケーキを口に運んだあとで手にはフォークを持ってるし抵抗することも叫ぶことも出来ない。
動こうとしてもリョウさんの力でびくともしない。
どうしよう?!と思ってたら、
「いい加減にしろ」
また先輩が助けてくれた。
今度はトレーで思いっきり叩かれていた。
ホッとしたのも束の間、叩かれたことでムッとしてしまったリョウさんが抵抗するようにあたしから離れず今度は肩を抱く。
なんだかあたしを置いて進む二人の言動に固まるしか出来ないあたし。
「あのさ、」
「なんだよ」
呆れた言い方のリョウさんに先輩が返事をする。
あたしは二人を目で追うしか出来ない。
「皐月は期待を持たせるようなことばっかりしてる。でも裕ちゃんの気持ちには応えない。嫌なら突き放せばいいじゃん」
リョウさんはあたしの肩を抱いたまま真剣なトーンで話す。
リョウさんはいつも冗談が上手くて、なかなか話せない先輩との仲を取り持ってくれる優しい人。
今までそうだったのに、今日このタイミングで真面目なトーンで核心に触れるような問い掛け、今のあたしには冗談では済まない。
「ま、待って。リョウさん、それは、」
「裕ちゃんは黙ってて。ね、どうなの?」
リョウさんの服を引っ張って、なんとか止めようと見上げるけど、リョウさんの視線は先輩に向けられていて目すら合わない。
「リョウさん、本当にやめて」
シャツが皺になるのはわかっていたけど、どうしても止めたくて必死に引っ張った。
それでもリョウさんはあたしを見てくれない。
いくらお客さんが少なくて店内が穏やかだっていったって声は響くし、こんなところを見られたら変に誤解されてしまう。
あたしが先輩を好きなのはあたしの勝手。
4年も片想いをしているのもあたしの勝手。
本気で嫌がられたら諦めようってちゃんと決めてる。だけど、先輩が呆れても突き放してこないから、あたしが調子に乗って想い続けてるだけ。
「リョウさん、お願いだから本当にやめて。あたしが勝手に好きなだけだから。これ以上迷惑かけたくな、」
「迷惑だって思ってたら、今ここに裕ちゃんいてないと思うよ?」
あたしが必死に説得する言葉を遮って、ようやくリョウさんはあたしを見た。
でも、笑顔はない。
一体どういうつもりで先輩に言ってるんだろう。
まさかここで、このタイミングで答えを出させるわけじゃないよね?!
不安になるあたしは内心あたふたしながらチラリと先輩を見る。
「…ちっ」
「なんで?!」
あたしと目が合うと舌打ちされた。
いや、もう意味がわかんない。
なにこれ、コント?