「下心って、なに言ってるの?」
「そのままの意味です」
「ちょっと待って、一旦とめていい?」
「いいですよ」
「下心ってなに?そっちの下心?それともあっちの下心?」
「あっちとそっちの意味がわかりません」

確かにそうだよね、と思いながらも混乱した頭でぐるぐる考える。
考えたところで既にキャパを超えてるから考えられないのも同然なんだけど、どうしても考えなきゃいけないような気がしてる。

考えてるフリでもしなきゃとんでもない事が起こりそうな気がする。

「混乱中申し訳ないんですけど、僕だって理性ってもんがあるんです」
「は?」
「確かに最初は面白半分でした。だってあなたはこの学校でも有名ですし、あ、“そういう意味で”ですけど、事実を目の当たりにした時は笑えましたし、バカだとも思いました」
「バカって!」
「黙ってください。でも、何度も見ているうちに可愛く思えてきてしまったんですから、……仕方ないです」

もう突っ込み所というか、グサグサさしてくる部分が多すぎて文句を言う口も開かない。
意地悪なのか悪口なのか、そして最後の言葉で何が言いたいのか更にわからなくなった。

「ねぇ、もっと簡潔に言ってくれない?今のは悪口なの?それとも、」
「ナナさんが好きだって言ってるんです」

今度は開いた口が塞がらない。

「聞こえてますか?」

口を開けて固まったままの私の顔の前で手を振るけど、そんなことされて反応できるわけがない。

このフラれ続けてる私を好き?
好きな人に好きになってもらえない私が好き?

「え、同情?」
「違います」
「ドッキリ?」
「違います」
「嫌がらせ?」
「違うって言ってるだろ」
「…敬語が外れた」
「だから何?今言っただろ、“理性がある”って」

だからそれがなんだって言うのよ。
そう言いたかったのに言えなくなった。
その代わりに私の心臓が大きく跳ねた。

「好きな女が自分の目の前でフラれて、泣いてて、抱きしめたくなるの抑えて必死なんです。冗談にするのはもうやめてもらえないですか」

好きな女、だって。
そっちの下心なんだ、やっぱり。

私はただのいじめっ子だと思ってたから全く意識してなかったけど、そういうことだったんだ。
コイツはあたしが好きだったんだ。

いつからかはわからないけど、私がフラれる度にコイツも私にフラれてたって事?

そんなの聞いてなかったから私に責任はないけど、少し可哀相なことをしちゃったかもしれない。
だからってわけじゃないけど、そう思ったからこうして逃げずに黙って抱きしめられたままになってあげてるの、不本意だけど。

「…抑えてるとか言いながら、もう抱きしめてんじゃん」
「・・・」

――――でも、

「でも、悪くないね」

うん、悪くない。
こうして抱きしめられているのはすごく落ち着く。

「最初からこうして慰めてくれたら良かったのに」

私の言葉に抱きしめていた腕を緩めて怪訝そうな顔を向ける。
もちろん、わざと。
簡単に流されてたまるかっての。

「ナナさん」
「聞いてたよ、私が好きなんでしょう?」
「・・・」
「考えてあげてもいいよ」
「は?」
「レイと付き合うかどうか」

ニヤリと笑うと眉間にシワを寄せて睨まれる。
コイツにすれば慰めて告白までしたのに、前向きな返事でも上から言われて気分がいいはずない。

「どうする?」

首を傾げて尋ねてみたら、「え、ちょっと待って!!」迫ってきたレイに口付けられた。

「考える間でもないね」
「なにを…っ」
「ナナは俺から離れられない、ずっとね」

最後の最後で形勢逆転。
ピクリとも動かなかった心がグラグラと揺れ始める。

「もう手遅れですね、ナナさん」

意地悪く笑うコイツにハマりそうな予感。





END