それでも不安に思うこともあって、これがきっかけで誰かと恋に落ちて彼女が出来るのかもしれないし、すでに彼女がいるかもしれない。
彼女がいるから他の女の子には冷たいのかもしれないとか色々考える。

噂では彼女はいないって聞くけど、彼のことだからうまく隠してるかもしれないし、噂は事実ではないし本当のことは彼にしかわからない。

だからって直々に彼女いるかどうかを聞くのも「気になんの?」って馬鹿にされたら嫌だし聞けない。
名前で唯一呼ぶ女友達だから勘違いされた、なんて思われたら恥ずかしい。

この中途半端なポジションで自分の気持ちをうまく隠しながら彼との距離を縮めていこうと思ってるわけだけど、そう簡単にいくわけなくて、今も現状維持。

「出会っちゃうのかなー」

とぼとぼ歩きながら無意識に出た。
出会ったらあたしはどうなるのかなー
彼女には優しいのかなー
誰もいないのをいいことに色々言葉に出してた。

「誰の彼女?」

え?と声のする右側にはなぜか彼の姿。
無表情でこっちを見てた。

「え?」
「え?じゃないし。誰の話?」
「いや、別に」

あなたの話です、なんて言えない。
誰もいないから口に出してたのに本人がいると思わなかった。
だって、ついさっきまで女の子に勉強を教えていたし、視界の範囲内には誰もいなかったし。

「大きな独り言だな」

ふん、と鼻で笑われて落ち込む。
別に独り言でいい。
元々独り言だった。
でも彼に聞かれたのはよくない。
あたしが誰かに片思いだって思われる。
そういうのは困る。

同じ速さで歩く彼と並んで歩くのはなんだかしんどくて自然と俯きながら歩いてしまう。

「多英」
「はい?」
「どうした」

こうして名前を呼んで心配してくれるのも今だけ。
「別に」って返したら「だよな」って笑われるのがオチ。

名前呼ばれるくらいじゃ特別にはなれないかーとまた現実を見てへこむ。

「多英」
「はい?」
「どうした」

二回目のやりとり。
あたし達ってバカなの?って思っちゃうほど同じことを繰り返した。

「あぁ、わかった。恋煩いか」

ふふん、と鼻で笑われて溜息が出る。
別に言わなくていいのに。
恋煩いって言ったって、あなたを想ってのことですけど…なんて言えないし虚しい。

「そうかもね」
「お前も恋したりするんだな」

また笑う。
あたしのことをどんだけ笑うつもりなんだってくらい笑う。
くすくすじゃない。
普通に声を出して笑ってる。

何が面白いのかわからないけど、単純に考えて、あたしが恋をしていることが面白いんだろう。

そりゃあ、彼から見たあたしは普通の女友達で気があるなんて思ってないだろうと思う。
それでもあたしは彼に恋をしてるわけで、それを笑われるのはムカつく。
あたしの彼に対する気持ちを馬鹿にして笑われてるようで、苦しい。

「笑わないでよ。あたしが誰に恋しようと、あんたに関係ないじゃない」

言ってから“もう少し可愛く言えたのに”と後悔する。

他の男友達と比べて親しいぶん、“好きな人”に向けて話しかけるように可愛く話せない。
急に態度が変わったりするのも変だし、あたしが彼を好きだと全面的に出すのも恥ずかしい。

ドキドキするのはあたしだけだけど、彼はきっとあたしを他の女の子と同じ目線でしか見ていない。

「その男とはどんな感じ?」
「別に。普通」
「普通ってどんな?」
「普通。こんな感じに普通」

気付くか気付かないかのギリギリのラインで答える。

全国模試3位の最近のモテ男は恋バナもするらしい。
でも勉強を教えるときのような口調じゃなくて普通に友達に話しかけるトーンで話してくれる。
それが唯一の救い。