ポルトガル船、マードレ・デ・
デウス号の沈没事件は、道春が始
めて起草した外交文書によりポル
トガルとの紛争は解決したのだ
が、これに関連した別の事件が発
覚した。
 デウス号を沈没させた有馬晴信
には幕府の目付けとして本多正純
の重臣、岡本大八が同行した。こ
の大八が晴信に「ポルトガル船を
沈没させた功績の褒美として、晴
信の旧領地を戻そう」との動きが
あると偽り、それを確実なものと
するため本多正純に働きかける金
を要求した。これを信じた晴信は
大八に金を渡した。しばらくして
大八は家康の朱印状を偽造してさ
らに金を要求して六千両もの大金
を懐に入れた。
 なかなか旧領地を戻すという知
らせがこない晴信が正純にこのこ
とを話し事件が明るみになった。
 大八は詰問され、言い逃れとし
て「晴信が長崎奉行の長谷川藤広
を殺害しようと企んでいる」と言
い出した。
 今度は晴信が詰問され、デウス
号への対応で意見の対立があり、
殺害する気はなかったが口走った
ことを認めた。