三人は信者に案内されて教会堂
に入り、その一室にハビアンが
待っていた。
 四人は少しぎこちなく挨拶をす
ませると羅山の問いから論争が始
まった。
「ではお尋ねいたします。ハビア
ン殿が言われる大地が球形とする
ならば、その上下はどうなってい
るのですか」
「お答えいたします。この地をマ
リのようなものとお考えくださ
い。マリの表面は私たちが暮らし
ている地上でありマリの中が地下
となります。ですからマリの表面
だけで上下ということはありませ
ん」
「それはおかしい。万物には皆、
上下、裏表がある。マリにしても
どこかを上とするならばその反対
は下となる。マリの中を下とする
のは詭弁ではないですか。私たち
はこの地を平らなものと考え千年
以上も何の不自由もなく生活して
いるではありませんか。それに東
西南北もあります。これが球形な
らどうなるというのですか」
「東西南北は人が決めたものであ
り、地上にはっきりと刻まれたも
のではありません。例えば舟で東
に向かってまっすぐに進むとまた
もとの場所に戻ってきます。西に
向かって進んでも同じです。です
からマリのようにこの地は球形な
のです」
「それは東西南北がないと言われ
ているのですか。舟でまっすぐに
進むと言われるが、海には荒波も
あり風雨にあうこともある。自分
ではまっすぐに進んでいるようで
も方角を見失うことがある。地が
平らでも一周すれば元の場所に戻
ることもあります。それだけでこ
の地が球形と言われるのは浅知恵
としか言いようがない」
 ハビアンは自分で実際に確かめ
たわけではなく神父たちから聞い
たことを喋っているだけで、証明
する術がなかった。なお室町時代
にはすでにポルトガル人のマゼラ
ンが世界一周をしているが、航路
はまっすぐに進んだわけではな
く、地が球形というはっきりとし
た証明にはならなかった。