「あっ、桐間さんおはようございますー」
「おおー高永さんおはよう!いやー今日もいい天気だね!」
「そうですね…きっと昼間には昨日くらいにまで暑くなると思いますよ」
「ああー…そりゃ敵わんなぁ…ワシみたいなじーさんは干からびてまうわぁ!」

辺りを見渡せば、こんな風景ばかり。
右見ても左見ても、辺り一面大人達の談笑の花が咲き乱れている。

「ねぇ佐柿さん?ウチ、醤油切らしちゃったからまたお借りしてもいいかしら」
「えぇまた?高永さん家の料理の味付け濃いと違いません?」
「何を言うんですか…隣町のレストランよりかは美味しいのよ?」
「あああのレストランはダメ。なんて言うかこう…素材を生かした味付けをしてないって言うか」
「でしょう?私はあのレストランと違ってそれが出来るのよ!」
「あらそう、なら久しぶりに料理の腕見せて頂戴な。ミートソースのスパゲティで」
「…醤油使わない料理じゃない!」

むせ返るような雑草と稲と土が織り成す香りに、大人達が作業をしながらお喋りを継続する時間。
学校の友達に会うことが少ないから、僕はこういった活動はあまり好きではなかった。


僕が住むこの喜歓町は、人口千人ちょっとの小さな町だ。
その人数故に、大抵の人は知り合いなのだ。
見渡せば畑か田んぼが何処へ目をやっても見えて、その間にポツポツと小さな家がたくさん並んでいる。
要するに、日本が誇るいくつかのド田舎がの一つが、この喜歓町なのだ。

人口の少ない町なので、当然ご近所さんとの関わりは必然的に持つことになる。
それが高じてか、お隣さん同士は家族ぐるみの付き合いに発展する事が多い。
当然、僕の姓である高永家にも、そういった関係の家庭がある。

「よお和希!」
「おお来たか!」

「高永さんおはよう」
「あら。瀬川さんおはよう。今日も紫外線対策バッチリね」

両家の夫、妻が挨拶をする。
それは子供である僕…いや、僕達も変わらない。

「あ、麻那美ちゃんもいるの?おはようございます」
「ほらっ、何て言うの?」
「ああいいのいいの。…一悟こそ挨拶しなさい!」


呼ばれて振り向く。
その時、僕達は目が合った。
その時だけ、世界には僕達しか居なかった。

「…おはよ。麻那美」
「うん。おはよう一悟くん」


瀬川麻那美。
お隣に住む女の子で、僕の幼馴染である。