「…なあ?高永一悟君?」

自分の内側から声が聞こえてくる。
その声は、紛れも無い俺の声だ。
職と恋人の両方を短時間の間に無くした俺を、俺の声が慰めるだなんて、いくら何でも惨めすぎやしないか。
そう裡なる自分に悪態をついてやりたかったが…生憎そんな元気はない。

「人生やり直したい?」

人生?やり直すも何も、全部終わったじゃないか。
故郷の田舎を捨てて都会でやっと手にした仕事で生活して恋人も出来たのに…その足場を失ったんだ。
ゼロからどうやり直せって言うんだよ。
ここでやっと、俺は悪態をつけられるほど元気になったと実感する。

「ゼロからやり直しちゃいけないって誰が決めたんだい。そんな人間はこの世に1人もございません。それに…ゼロじゃないじゃん」

…はぁ?だから俺は…。

「へえそうかい。じゃあお前は誰だ?何処出身の方なんですか?」

ああ…そうか。たとえ屁理屈でもゼロではなかったな。

「屁理屈なもんか。故郷は今だってあるだろうに」

…ああそうだな。もう何年も帰ってないや。

「…なあ?」

何だよ。惨めったらしく泣かせてくれよ。

「人生やり直したい?」

…うん。ホントにやり直せるなら…
あの日の言葉を消して。
あの日の俺を殴ってやりたいね。

「…ふーん」

聞くだけかよ。ホントにやり直させてくれるのかと思っただろ。もういいや…寝よう。


「やり直したい理由なんか気付いてる癖に…夢で突きつけてやろう。お前は俺なんだからな。やり直すのはお前だよ」