「ケイコ、口紅持ってない?あたしこれからデートなんだよね。」

「あるよ!いいじゃんデート。ユウコ今日髪型イケてるじゃん。」

同じクラスのケイコとユウコ。
彼女らには年上の彼氏がいる。
同い年なのに、2人とも大人っぽい。

「しい、彼氏まだいないの?」
「しいはお子ちゃまだからね。」

彼氏なんて、未知の領域だ。
少女漫画は、彼氏彼女の恋愛だらけで、いつしか少年漫画を読むようになっていた。
男女の恋愛云々より、冒険やスポーツやミステリーのほうが面白かった。

「ケイコ、ピッチ貸してー。彼氏にベル打ちたいんだよね。」

「なんて?」

「『イマドコ?』」

「オッケー。」
ケイコは慣れた手つきで、ユウコの彼氏のポケベルにメッセージを送った。

「サンキュ。はい、10円。」

クラスに2.3人だけ、PHSを持っていた。
ケイコはその中の1人だった。
ポケベルは割と普及していたが、校内に2箇所しか公衆電話がないため、休み時間は長蛇の列になった。
ユウコは、並ぶのがめんどくさいので、いつもこうしてケイコに頼んでいた。

「あ、ベル、返ってきた。校門の前にいるって!じゃあね!」

「ユウコのとこ、相変わらず、ラブラブだよねー。ま、うちもだけどね。」

2人のいつものやり取り。
見ていただけ。
自分が加わることはないと思っていた。