「ロク、肉が足りねぇ。もうすぐ内田が来るから、あの女に帰ってもらって。あの女の分にやる肉はない。」
聞こえている。

「えっ、もう帰る?送るよ。」
いらない。肉食べてください。なくなりますよ。
「俺のバイク、しいの団地だし。送るって。」
そうだった。また、バリバリバリバリ…それを聞くと、親が、嫌な思いをする。

「ロク、聞いてんの?内田迎えに行けお前。」

ロクがヨヨに捕まってる間に、逃げた。

自転車で、走って、走って、坂を下った。

駅前の、ストリートミュージシャンが歌っているところを、横切る。

「しい!」

呼び止められた。パダだった。
右手には、吸いかけのマルボロ。

「なにしてんの?」

息を切らせてる私に、虫歯を見せて、笑った。

私からは、話題はないんだけど、何か、話したい…。
この道を走れば、その先に、パダの働く居酒屋がある。知ってたから…。

「しい、俺が奢るから店いこ。立ち話もなんだしさ。」
PHSを渡された。
「それで、家に連絡して。ご飯いらないって。」

その時に発信した番号が、パダのPHSに残ることになる。

あ、おかあさん、
その、ユウコが…
うん…ユウコと…

後になって思えばバレバレなんだけど、何かというと、私はユウコの名前を出した。

相手がユウコじゃないのはバレている。
周りが騒々しい。ここが駅前なのも恐らくバレている。
母親は、バレバレの嘘を飲み込んで、門限までには帰ってこいと言った。