私には、漠然とした夢がある。

工場でバイトをしている。
夢の実現の為には、お金がいる。

「あんた、手が遅いね。日が暮れるよ。」
「ロク、あんた、ここ入って。新人の子が使えない。」

ロクと呼ばれた、同世代の男の子が、近くにきた。

「あんた、何さんだっけ、桜坂さん?ロクの動きよく見てな。早くて無駄がないから。」

ロクは、手早く、お子様カレーのレトルトパウチを箱に詰めていった。

「桜坂さん、ロクが詰めたやつに、どんどんガムテープ貼っていって。」

慌ただしく作業は終わった。

私はもともと、テキパキ動ける方ではない。
でも、内気過ぎて接客は出来ない。
その日は、ロクと連携して、作業が早く終わった。

工場内の作業なので、夏は、蒸し暑い。
帽子とマスクを外すと、開放感があった。


ピピッ

タイムカードが戻ってきた

あれ…?

「今日から16日だから、それ、裏返しにしないと刻印されないよ。」

聞き覚えのある声。
ロク。
帽子とマスクを取った顔、お互い初めて見る。

お礼を言って打刻する。

「あのさ。休憩中ずっと、参考書読んでるね。面白いの?」

見られてたんだ。

それがロクとの初対面だった。