「……ひっでぇ顔」




無言でリビングを通り抜けようとしたところで、挨拶代わりに陽光に笑われた。




俺を心配したように窺う陽光の表情に苛立った。




まるで、兄貴みたいな面をしてる……。




いつでも陽光はそうだった。



俺と同じ時に生まれ、同じ顔をしているのに……俺は追い付けない。



望むものは絶対に陽光の元にある。





あの時の母と父の手も、
日咲の気持ちも……。




俺が欲しかったモノは全部、同じ顔をした陽光に繋がっている。




さっきまで外していたメガネを無言でかけた。




俺は陽光と違う。
唯一の抵抗。






『雨音は雨音っ。顔が似てたって、陽光くんの代わりじゃない』




裏庭で真剣な顔した日咲が言ってくれた言葉。



日咲のつく優しい嘘に甘えていた。




手紙を抜き取った俺に何の疑いも持たず、申し訳なさそうな顔をした後、




『わたし、雨音くんが……好きです』




笑顔で言われた優しい嘘。




……やっぱり日咲は優しい。




嘘を言わせたことで傷付け、
嘘を言われたことに傷付いた。