忙しく動かしていた手を止め、祖母が俺に目線を合わせる。




厳しさの滲み出た険しい顔の祖父と違い、優しさと暖かさの込められた祖母さんの眼差し。




どことなく母さんに似た面影を持つ眼差し。



この時の俺の、唯一の心の拠り所だった。




「なんで陽光だけ……父さんと母さんの傍なの? 僕は要らないから?」




双子じゃない、普通の兄弟なら弟である自分が残れたかもしれないのに……。




幼心にそんな不満と、弟だからこそ切り捨てられたのかもしれないという不安ばかりが、ずっと頭の中にあった。





俺の言葉を聞いた祖母さんの表情が、悲しげに曇っていったのを今でも覚えている。




「違うわ、雨音。お祖母ちゃんが……雨音と暮らしたいって我が儘を言ってしまったの。ごめんなさい」




これが、祖母さんの嘘だということはわかっていた。




父さんが電話で、



『手のかからない雨音の方で良いから頼みます』



そう言っているのを、俺は聞いていたから。