「ごめんっ。ちょっと急ぐんだ」



如何にも申し訳なさそうな愛想笑いを浮かべ、彼女を交わした。



靴を履き替え、再び並んで歩き出すものの、もちろんわたしは雨音の顔を一度だってまともに見ることが出来なかった。




忘れかけていた罪悪感が一気に蘇る。


胸の中に沸き上がるモヤッとした薄暗い感情に思わず手のひらを握りしめたとき、



「来て」



雨音の冷たい手が、わたしを導いた。

わたしたちが初めて言葉を交わした、偽りの好きを雨音に伝えた場所に……。




雨音の足が止まるのと半歩程遅れて足を止めた。




……何から伝えれば良いんだろう?


ごめんなさい?


騙すつもりは無かったってこと?



それとも今では雨音のことを……本当に好きになってしまったっていうこと?





ずっと俯いたまま、履き潰された雨音のハイカットのスニーカーを見つめ続けていた。




思えば、靴箱をきちんと確かめさえしていればこんなことにはならずに済んだのに……。




今更しても仕方ない後悔ばかりが頭を埋めていった。