「あ、あれって……麗苑先輩?!」
隣で突然大声を出す雛乃の声は朝に弱いわたしの脳にかなり響くもので耳を塞ぐのに少し出遅れた。
「っ……だれ?」
わたしの問いかけに「しらないの?!」と、またしても大声でいう雛乃。
「しらない。っていうか、雛乃うるさいよ……」
「あ、ごめんごめん。ついね〜」
と、いいながらも「説明しよう!」と、言う雛乃に「はぁ。」と、いうしかなかった。
話しからすると、彼は神崎麗苑(かんざきれおん)というこの学校の3年生の先輩で、かなりイケメンという有名人らしい。

「ちょっと私話し掛けてくるから先教室行ってて! んじゃ!!」
台風のように去っていく雛乃の後ろ姿を見送ってため息しか出てこなくなる。
だけど、本来アレが女の子の本心なのかな。と、思ったりしてしまう。
雛乃が麗苑という先輩に話しかけてる時には既に女の子たちの波に包まれていた。それほどの人気者なんで今まで見てなかったんだろうか。
まぁ、それもわたしには関係ない事だけど。

そんなこんな1人で教室に向かって歩いているわたしの後ろから男子の声。
「よっ! 夢月さん。」
うちのクラスの人気男子と隣のクラスの人気男子はいつも一緒で何故かわたしにこういう風に挨拶をしてくる。
「……おはようございます。」
軽く敵度に、あんまりこういう系の人たちとは話したくないから速やかに退避しようとする。が、いつもうまくいかず。
「ちょいちょい。どこ行くのー? 夢月さんって相変わらず俺らに興味もってくれないよね〜」
だからなに。と、心の中で思っていても言い返さないのは変に強気になってトラブルを起こしたくないから。
わたしがいい返してやられたら抵抗する前にやられるからね。
「ごめん、まだまとめたい事全部終ってないからあとで。」
そういう嘘で誤魔化しているのもいつもの事です。


1人、机に伏せて寝そうになっていると誰かに肩を揺さぶられた。
誰かといっても言うまでもない。
「ねーねー聞いてよむーうー!」
この声色、雛乃に決まってる。
「なに?」
机にそって伏せていたわたしの顔の目の前に雛乃の顔がドアップで映る。
メガネを外していてもわかるくらい近いところまで。
「朝さ、麗苑先輩のとこいったじゃん? そしたらいっぱい女の子たち来ちゃって、うちの3年生の性格悪〜い先輩が来て、1年は教室戻って勉強でもしてなって小声で言ってどっか行ったんだよ? ひどいよ〜雛乃だって麗苑先輩の優しさ欲しかったのに〜……」
まったくわからない。けど、雛乃の頭を撫でて「ドンマイ」と一言。
「くっそぉ〜負けないんだからね〜」
と、本気の顔で言ってなにかに突っかかろうとしている雛乃を止めるのは言うまでもない。
「ていうかさ〜、いーよねーむうは。」
「なんで?」
雛乃の頭から手を離して問うと、「だって」と言う。
「むうはさ〜メガネ外してちょこっと笑うだけでもう天使レベルにかわいいんだもん。」
「は?」
雛乃の不意打ちに一瞬何を言われてるかわからなかったがきょとんとしながらもまた話を繋げる。
「メガネ外さなくていつもの調子で冷たくしててもメッチャ美女じゃん。元の違いってやっぱりおおきいよね〜いーなーずるいなーむうだけさー。」
どんどん話を進める雛乃の言葉に「え、ちょっとまって。」なんて言って訳の分からない事を言うなと口を塞ぐ。
「雛乃だって充分かわいいでしょ」
と、一言。こっそり言ったつもりが耳のいい雛乃には丸聞こえ。
「うわっ、むうが褒めた。嬉しいけどなんか違和感。」
「失礼な。」