「これで良かったのか?」



空に向かって息を吐くように溢された言葉たち。独り言にしては、大きい。ここには私とルカしかいないのだからきっと私へ向けているのだろう。

それにしても、だ。こっちが懸命に運んでいるというのに、なんて今更な。石もないのに躓きそうになった。



「私が今ここにいて、オンボロなリアカーを引いているのがその答え」

「…アトリは逞(たくま)しいな、」

「これ以上惚れないでね」

「気をつける」



まるで他人事ーーールカは今も昔も変わらない。


自分に無頓着、その癖人には興味を示し易い。歪な人間が彼だ。今だって、ルカが自身の状況をどれだけ把握しているのか、私の考えが及ばぬところではある。




「親父さん、何て?」

「反対してた」

「お袋さんは?」

「泣いてた」

「リッキーは?」

「…鳴いてた」

「はは、そりゃ犬だもんな」



家を出て、村を出る寸前まで私の家族は皆これから私が仕出かすであろう行動に難色を示していた。あろうことか飼い犬までも。

何度も静止をくらって、それでもその手を振り払って来たのだから。今更そのことに対する後悔はない。むしろ清々しさが勝る。




「一人娘、俺が取っちゃったわけか」


「そうだよ。だから責任持って私のこと幸せにしてくれないと」

 


そうじゃなきゃ、割に合わないでしょう。




「ルカ、聞いてる?」

「聞いてるよ」

「…なら答えてよ、」

「悪りぃな」




ルカはその間もずっと上を見上げていた。何があるわけでもなく、青が広がるだけの場所を飽きもせず、ずっと。




ーーー・・ミシミシと、何かが侵食する音がした。