_388年12月19日

その日は空一面が青かった記憶がある。






「なぁ、俺はこのなりでどこまで行くんだ」




ガラガラガラ、荒れた道路を車輪が進む。

 
時折、無造作に転がる石ころに引っ掛かるとその振動に彼が「いって、」と声をあげた。


気怠げな声に、私の歩みが止まることはない。前屈みで鉄製の柄を両手で持ち前へ進む。首を回し目線だけくれてやれば、キャスター付きのトロッコの木箱部分に収まっている男が不機嫌そうにしていた。



「足折れたらどうすんだよ。もっと優しく運べって」



1分に1回はそうやって文句を垂らすあたりまだまだ元気じゃないか、と安心する。端から見れば女が男を乗せて木製リアカーを引いている異様な構図、今だけは人がいないこの広大な大地に感謝をした。


目の前に広がる先人が作った道路と、遠くに見える大樹以外、そこには何もない。砂漠のように拓けた大地は気が遠くなるなる程続いている。



 

「アトリ」

「なに?ルカ」



ーーー 私達が故郷(20人程度の集落)を離れて、23時間と数分。日付も変わり気付けば太陽が真上にある。


赤道より遥かに上にある大陸のそのまた片隅を進むわたし達はこの季節にしては薄着だった。ただただ寒い道路を行く。




羊毛のマフラーを口元まで上げて、空を見上げたルカはわたしの名前を呼んだ。