拝啓

 名も知らぬ貴方へ。




 これは手紙ではなく、ただ知っていてほしいと、そう思い記した紙切れです。


 貴方が生きている世界はどんな景色ですか。私が生きていた世界と然程変わっていないのであれば嬉しいし、変わってしまったのならば悲しい。年を重ねたこの地上に、もはや希望はありません。


 何百年も前に栄えた文明の遺産は今はもう見る影もない。ビルと呼ばれた天高く聳えていた建造物は荒廃し、夜になると光の溜まり場であった都市の大多数は滅びたと聞きます。生き残った都市も人が未だに居住区としているだけで機能などしていないのです。

 今はただ、大きな大きな樹木を世界のどこを歩いていても見掛けるぐらい。あるところでは成長し続ける大樹の森があり、あるところでは樹木同士が絡み合ってまるで、恋人同士のように佇んでいます。



 西暦の暦は終わり早400年と13年。世界の人口は一時期の0.6パーセントにまで減少し、今もなおその数を減らし続けています。終末が近いのだと思い知らされるのです。

 そして生き残った人類が412年前に新たに定めた暦は、前に冠を持たない、ただの800年。一つ年を経る毎に暦の数字は一つ若返る。ーー・・412年前、人類は生きることを諦め終わりを受け入れました。



 つまりはカウントダウンーーーあと388年で全ての人類はこの地上から姿を消す。これを読んでいる貴方がこの世界で最後の一人ならば嬉しいです。



 この地球で生を受け、知能を持ち、栄華を手にした人間をいう生き物がもうすぐ消え、人間の星であったこの地球はただの地球になるのです。

 

 ああ、そうだ。少し私の話をしましょう。きっとこれを読んでいる貴方には時間なんていくらでもあるでしょうからーーー・・