「穂花の言う通り、俺は穂花のことを何も知らない。」


悠は小さく言った。


そして、なんどもなんどもわたしの涙をぬぐう。


「でも、知りたいって思う。まだ、穂花のことはわからないことがたくさんあるけど、それでも、知りたいって思うんだ。」


悠は一つ一つの言葉に力を入れながら話した。


「それじゃあ、ダメか?」


「っ…っうー…」


悠はそんなわたしの手を取ると、ゆっくりとエスコートするように草地を歩んだ。


「ほら、見てみ。」


涙を必死に拭って見てみると、桜の木の横を、ちろちろと小川が流れていた。


「桜の嬉し涙だよ。」


悠はそう冗談めかすように言った。


「ここは、俺らだけの秘密基地。」


「…っうん。」


「来年の春、また桜が咲いたら、俺、またこの桃色の花をみたい。」


「っうん…。」


「穂花、一緒に見てくれる?来年も、再来年も、ずっと、見てくれる?」


「うんっ。」