ービュン


風が髪を舞い上げる。



「坂、落ちるなよ。」



悠のぬくもりが心地いい。



いつもは一人でくだっている坂を、今日は二人で勢いをつけて滑り落ちる。



会話は生まれないけれど、それでも、ただ悠の手が、確かめるようになんども彼の腰に回ったわたしの手を握りしめるのが、安心する。


八つ当たりしたさっきの苦い気持ちは、風が頰を優しく撫でるたびに薄れてゆく。


悠の香りは日向の匂い。なんだか優しくてあたたかい、そんな甘い香り。


どこに行くのかなんてわからない。


それでも、知らなくていいって思った。


このまま悠とともに誰も知らない世界に行きたいって思った。


辛い記憶は全部投げ出して、彼について行ってみたいって思ったんだ。


なんでだろう。


悠といると、落ち着くんだ。