「悠の写真たて、今年も持って行こうかな。」


気づけばあれから18年。


毎年春になると、常に忙しい病院の静かな屋上に来て、空を見上げる。


高校時代の懐かしい思い出に浸っていると、いつも気づけば微笑んでいる。


今では遠い記憶になってしまっているけれど、それでも、腹のそこから笑ったあの楽しさだけは、まだ鮮明に心の奥に残っている。


結城悠と過ごしたあの二年間。


短かったけれど、わたしの35年間の人生に強く刻み込まれた、幸せなひと時だった。


色々な病院で働いてきたけれど、503号室を見るたびに、奥の白いベッドから、桜の刺繍の入った青い帽子がのぞいているのではないかと思ってしまう。


「じゃあわたし先に戻るね。」


そう言って背を向ける美菜も、きっと今、悠に何か伝えてきたのだろう。


真っ青な、どこまでも続く空を見上げれば、天高くどこかに悠がいるのだろうと思い、小さく微笑む。


きっと彼は、今でも笑っているだろう。


くだらないことでみんなをドッと笑わせて、もしかしたら、今では亡きおばあちゃんやおじいちゃんも一緒に笑っているのかもしれない。


きっと、悠はいつまでもわたしの心の支えになっているヒーローだ。


神様が選ぶわたしのヒーローは、君じゃないとダメなんだ。


どれだけ時間が経っても心の中で笑い続ける悠に、頑張った悠に、精一杯の笑顔を届けたい。






わたしのエールがこれからも届けばいい。


悠のエールはわたしに届いたから。