『最後までずっと穂花がそばにいてくれたから、俺、嬉しかった。』


涙で何も見えない。けど、悠の力のない、低い声だけは耳に届く。


『穂花、』


涙が床に海を作るけれど、わたしは悠の瞳を真っ直ぐに見つめようとする。


穂花って呼んでくれる悠が好き。


もう二度と悠のその優しい声が聞こえないなんて、信じられない。


先週行った時は元気だったじゃん。ゆっくりとだけどまだしゃべれて、寝たっきりになってたけど…っ、それでも、わたしを見てたじゃんっ…


なのに…なのにっ…


『俺はもう、どうして神様は俺を選んだんだろうなんて言わねえよ。』


「っ…え…?」


『やっぱりさ、いくらみんなに迷惑かけても、』


悠はくしゃっと笑った。


『俺はヒーローになりたい。』


「ぅ…っ。」


『神様にきっと、ヒーローの役目を与えられたんだよ。穂花のヒーローになるために、俺は生まれてきたのかもなっ?』


さっきまで悠の目は光ってないって思ってたけど、今見つめかえせば、人生に後悔のない、さっぱりとした笑顔で笑っているように見えた。


『穂花、俺きっと、世界一幸せだと思う。』


ニッと笑う悠は世界で一番良い笑顔をしていて、


『穂花っていう人に出会えて、俺、すっげー幸せだよ。時間なんてさ、人それぞれじゃん?長い人もいれば短い人もいる。だけど、幸せは測れない。』


悠はあははって笑う。


『泣くんじゃねえよ穂花。ふっ。俺、幸せもんだよなあ。こんなに涙を流してもらえるんだから。』


冗談じみて言った悠だけど、本当に嬉しそうだった。


「悠は…っ、みんなに愛されてるんだよ。」


『俺は、穂花に好きになってもらえて、もう、後悔なんてねえ。ただな…穂花に、好きって言えなかったことくらいかな。』




「悠…好きっ…。」

『穂花、好きだよ。』




わたし達の声が重なったのかと思った。


今、悠はわたしの前にいない。


だけど、時空を超えて、好きって想いあえているような気がする。


父親の気持ちを何年もかけてやっとわかることができたように、悠っていう人が、今この世にいなくたって、それでもきっと、わたし達は繋がっているんだ。