病院から電話がかかったのは、1年後の春のことだった。


朝焼けがすごく綺麗な日だった。


黄金色の光が桜の木々の間から差し込んでくる。


タッ、タッ、タッ、と鳴るわたしのローファーは、今年新しくおばあちゃんが高校三年生のお祝いで買ってくれた。


「早く!急いで!」


そう促すのは先頭を走るお母さんとお姉ちゃん。



今日はお姉ちゃんの大事な会社の面接の日なのに、わたしの為にタクシーを呼んで待っていてくれた。


「入って!」


お母さんに背を押されてタクシーの座席に押し込まれる。


「◯◯病院までお願いします!」


放心状態のわたしに変わって、お母さんがタクシーのおじさんにお願いしてくれているのがわかった。


窓の外を見つめると、なぜだか涙ぐんでいるお母さんと、頼もしく頷いてくれているお姉ちゃんの姿が見えた。


いつ車が走り出したのか、どうしてこの車の中にいるのか思い出せないほど、わたしの頭は真っ白だった。


なんどもなんども通った同じ道のりなのに、いつもと全然違う景色に見えた。


浅く息を吸いながら、なんとなく携帯を開けば、楽しそうに笑っているわたしと悠のツーショットが表示された。


これは高校二年生の夏、悠が外出許可をもらって二人で公園を散歩した時に撮った写真。


カメラロールを開けば、悠の写真が溢れんばかりに次々と出てくる。


病室で一緒に撮った、悠が麻酔でうとうとしているときの写真。

病院の裏庭で、悠がお花を摘んで笑っている時の写真。

悠とわたしの家族と一緒に、秋の紅葉を背景に撮った写真。

ビデオのフォルダーを開けば、何十もの動画が並んでいて、胸の奥がつっかえる。


『穂花撮るなって。俺今日顔色最悪なんだし。』

『ええー、いいじゃん。かっこいいし。』

『か、かっこいいってお前、何言ってんの。』

照れてそっぽを向く悠が愛おしくて愛おしくてたまらない。

別の動画を再生すれば、車椅子に乗った悠を押しているときの動画が、今まさに目の前に彼がいるかのように繰り広げられる。


『ははっ、やべえ俺王様かもしんねえ。』

『はあ?』

『皆の衆〜、道を開けよ!』

『気持ち悪い〜!』

『王様を罵るとはなんたる無礼!』

『もう!』

『あははっ、ごめんって。』

『あはははっ。』


悠の笑顔がこんなにも自分を苦しめるなんて知らなかった。

悠が笑うことによって、どれだけ自分が罪悪感を感じることになるなんて、前のわたしは知らなかった。