「…穂花?どうかしたか?」


わたしはふっと我に返った。


「あ、ううん。なんでもない。」


そう言って笑えば、悠は納得のいかないような表情で私を見つめた。


白い病室のベッド脇の椅子に腰をかけながら、わたしは悠を見つめ返す。


「なんかあったら言えよ?」

「うん、ありがと。」


悠は先週から青い帽子をかぶっている。


わたしがその帽子に桜の刺繍を縫いつけたらくしゃっと笑って喜んでくれたっけ。


「お母さんになんか変なこと吹き込まれてねーだろうな?」


悠はさっきからそれが気がかりだったらしく、眉間にしわを寄せながらわたしを睨むように見つめてくる。


「あははっ、なにそれ。」


悠はむっとした表情で視線を逸らした。


「なに?知られたくないことでもあるの?」


追い討ちをかけるように尋ねれば、


「んなのあるわけねーだろ!た、例えばだぞ?例えば小さい頃の同級生に振られた話とかあるかもしんねえじゃん。」

「あははっ、そうなの?かわいい!」


そういうのを自分から暴いてしまうところがやっぱり悠らしくて…。

そんな悠に、母性本能が疼くんだ。


「って!た、例えばの話だし!」


恥ずかしがってる悠も可愛かったりする。

でも…悠が知らない女の子を好きだったのは…ちょっとだけむかつくかも。


少しだけ頰を膨らませば、なんだよ、って顔で悠が見てくる。


「嫉妬しちゃうじゃん…。」

「えっ……?」

「って、ああ!!今の忘れて!」


何言っちゃってるのわたし?!

いくら悠だからって、子供じゃあるまいし、恥ずかし…。


「っ…。」


顔を上げて思わず目を見張る。悠が口元を押さえて目をそらしている。


どうしたの?


…なんて聞く余地もないくらい、悠の耳は赤かった。


そして一瞬だけ目があって、そのままわたしの恥ずかしさが伝染するようにより一層悠の頬が熱を持つ。そんな悠を相手に、わたしの心臓は飛び出してしまうくらいドキドキしてる。

わたしって、怖いくらい悠が好きみたいだ。もう依存しちゃってて、そばにいるだけで、こんなにも胸が熱い。

悠の視線を感じるだけで…ほら、クラクラするもん。