『これからも悠をよろしくねっ。』


そう泣きながら悠のお母さんに頭を下げられたのは一時間前のことだった。


いつものように悠の病室で雑談をしていると、悠のお母さんに手招きされた。


普段だったら静かにこんにちわって声をかけられるだけだったわたしは、戸惑いながらもその後に続いた。


『悠はね、ずっと穂花ちゃんが来るのを楽しみにしてるのよ。』


赤みを帯びた悠のお母さんの瞳は悠の力強い瞳そっくりだった。


『再発してから、もう病院生活が間近に迫っているのは覚悟してい
た。』


悠のお母さんはまるで昔話を語るようにそういった。


『でも、それでもやっぱり…っ、受け入れられないのが、母親なのかなあ。』


『…っ。』


わたしは何も言えなかった。


『これからも悠をよろしくねっ。』


それに、どう返したのかも覚えていなかった。


ただ、すごく苦しかった。悠の家族のことを思うと、すごく、すごく切なかった。