HEROに花束を(完)


悠の瞳が揺れる。


悠、泣かないでね。


泣いちゃダメだよ。


悠の笑顔が一番好きだから。


ー悠が口を開いたと思ったら




「穂花…っ帰れ。」




低い掠れた声で、それでも真っ直ぐと告げられたその言葉。


悠の見たこともないほど鋭い、嫌悪の眼差し。


悠に心臓を潰されて、引き裂かれた思い。


悠はわたしに一度として、そんな冷たい眼差しを向けたことはない。


まるで悠が悠じゃないみたい。



そう言われても、わたしは答えない。

そう言われるってわかってたから。



怖いけど、でも、もう悠を離さないって決めたから。

絶対に離してあげないんだから。



「穂花、」

「わたしは悠が好きだもん。」



悠が固まる。



「だから帰らないよ。」



「穂花、俺は、」

「知ってるよ。」


悠はまた静止する。


「知ってるならっ…!俺はお前を守れないっ。それに俺嘘ついただろ。嘘の上に嘘ついた。だから、もう来るなっ…。」


「そんなの知らない。」


悠はまた顔を曇らす。


「どんな悠でもわたしは好きだから。」


「っ…。」


「わたし、悠じゃないとダメなの。悠がいい。悠が好きで好きでたまらないのっ!」


涙がこみ上げそうになって飲み込む。


「ねえっ…ダメ?」


悠の表情が歪む。


「こんなっ、弱った俺、だせえだろ。」


「ださくなんかないっ。」


「俺は見られたくなかった。」


「わたしはっ、かっこいいと思う。いっつも笑顔見せて頑張ってる悠がっ、かっこいいっ!」


悠からバッと背を向けて、手の甲で涙を拭う。


見せられない。


見せちゃダメだ。