頭上を見上げれば淡い桃色の桜の花々。


甘い香りが鼻をかすめる。


肩に舞い降りた桜の花びらを光にかざすと、優しい薄いピンク色になる。


あの日、君をみて運命を感じた。


桜に愛されている君を見て、物語の主人公に似ていると思った。




わたしの物語の男の子は父だった。




桜のベールの中で笑う父と少女を見た時、自分が本当に捨てられたんだって知って、すごくショックを受けた。


その現実を受け入れることができなくて、ノートに、父を意味する男の子を描き始めた。


『お父さん』


あなたがまだ隣で笑ってくれているような気がして、その絵の男の子ばかりを見続けていた。

桜の花びらはわたし。

父がわたしを追いかけて、『ごめんな、穂花。穂花のことが世界で一番大好きだよ。』って言ってくれているのを想像していた。


だからあの日、桜の花びらが悠の上に舞い落ちた時、悠を父に重ねて見てしまったんだ。

いつだって優しくて無邪気で、どこか抜けているような底なしの笑顔を持っていた父に、あまりにも彼が似ていて…

悠がお父さんなのかもしれない…なんてどうしようもないことを無理やり自分に言い聞かせていた。

それで現実逃避できるのではないかって。


それが、その人に、恋をするなんて…